ハイパーレジャーの解説を聞いて:企業ブロックチェーンの適用と、導入で守るべきこと

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先日、ハイパーレジャーの製品群[1]であるIBMのファブリックの解説とデモをのセミナーを2時間受けました。この講義はとてもおもしろく、製品の仕組の理解が進み、デモはビジュアルでわかりやすかったです。どこに応用できそうかというのも想像できて、個人的にワクワクしました。

なかでも、サプライチェーンへの応用はとても面白い。デモでは、自動車の車両証明書が例としてあげられていました。規制当局が証明書を発行し、それをメーカーが受取って車両の機種や製造Noなどを入れます、それをディーラーがうけとって販売履歴として持ち、リース会社がうけとり、最後は廃棄業者が廃棄した時点で証明書が無効になるというものです。証明書はオブジェクトのインスタンスになっており、業界のプレイヤーによって利用できる共通またはそれぞれのメソッドが提供されており、それを適切に使うことで、ビジネス・プロセスがスムーズに進み、可視化されます。

いままで、こうした情報の共有と流通を行うのは困難で、業界内の共通データベースなどを作る試みはいろいろ行われていましたが、中央集権型のアプローチでは、ずっと失敗してきました。

コンソーシアム型[2]のブロックチェーンを作れば、こうした問題を解決し、大きなメリットを享受できそうです。

ERPのデジャブ

私は、過去は大企業向けのコンサルティング業務をしていましたので、こういうメリットと狙いはよく理解できます。導入により、業務のプロセスが効率化、可視化されて、意思決定や、ビジネスのスピードが上がります。

かつてバラバラに存在した企業情報がERPによって一元化されて、企業のグローバルオペレーションができるようになったような感じの、デジャブを見ているようです。

オペレーション革新などのコンサルティング業務に関わった人であれば、ブロックチェーンの狙いを理解すれば、その応用範囲や、改革のイメージなどが容易に想像できるのではないでしょうか?

業務やビジネスの変革ツールとしてのブロックチェーン、とりわけ業界全体での取り組みに対するインパクトは大きいと理解しています。

重要なのは、コンソーシアムチェーン

一つの企業内でのブロックチェーンの導入は、データベースの置換程度で大きな業務インパクトは出ません。

ERPの例えでいうと、単体のブロックチェーンは、本部の勘定系だけにERPを導入しただけのイメージです。たしかにそれでもある程度の効果があるのですが、子会社やグローバル拠点すべてにERPを入れて統一オペレーションを行うインパクトに比べれば、効果は限定的であり、ERPのポテンシャルを引き出すには至ってません。

つまり、ブロックチェーンも自社内データベースとしての意味でいうと、コスト面や、運用面では、従来のデータベースに比べてメリットが有るかどうかは疑わしく、やはり、業界のコンソーシアムチェーンとして機能してこそ、メリットが最大化されると思います。

その時のメリットは、システム的なコスト削減といったものより、オペレーションの革新や、情報を共有することで生まれるスピードといったもので、某社のウリ文句のような

「ハイパフォーマンスの実現」

といったことが主眼になると思います。

また、導入したから自動的にビジネスインパクトがもたらされるのではなく、適切な狙いのもと、オペレーションの改革を含む導入が必須となります。

そういう点でも、ブロックチェーン製品は、コンサルティング会社の商材としてもうってつけです。デロイト、IBM、アクセンチュア、EY、PWCといったプレイヤーが取り組みを本格化させているのも実に頷けます。

セミナーを受けた参加者も、自社や自分の業界で、ブロックチェーンが適用できる業務はどこか?どこに革新のポイントがあるのか、ということを自問自答したとおもいます。

また、技術的には、基盤はIBMなどがクラウドで提供するので、導入も容易で、あとは各自上位レイヤーのアプリケーションを作成すれば良いだけなので、開発も難しくないです。

ユーザー企業においては、今後ブロックチェーンの開発というのは、クラウドサービス上に構築された基盤上で、業界の業務に沿ったスマートコントラクトを作成することを指すようになります。

分散的であるかは関心事か?

一方で、ビットコイナーから見ますと、考え方の違いが新鮮でした。ビットコイン的には、達成したい最大の目標は「非中央集権化」です。つまり、徹底的にだれかの介入をさけ、銀行や政府から独立し、分散的で、インターネット的なお金であることが第一の価値です。スピードや、コストも重要ですが、それよりも、分散的であることが失われてしまえばビットコインの存在価値は薄れ、電子マネーのほうが早くて手数料も少なく便利です。

ビットコイナーの実現したい価値は「独立した分散型のお金」です。

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一方、こうした企業向けのブロックチェーンの製品の説明を聞くと、分散型であることは初めから放棄しているように思います。たとえばファブリックではCA(認証局)が存在し、そこがユーザーの秘密鍵・公開鍵を発行したり、チェーンへのアクセス制御を行ないます。(アーキテクチャの図の左端、オレンジの部分がCAを表す)

このCAは、鍵のバックアップなども保有していますので、ビットコイナーからみると、Single point of failureを導入してしまっていてブロックチェーンのメリットを破壊しているように見えます。

一方で、企業の業務上では必要な認証機能を提供していますので、便利であるとも言えます。実際セミナーに参加したユーザー企業も何の疑問も持っていないようでした。つまり、ビットコイナーにとっては違和感のあるようなこう言う点については、とくに議論にはならないようです。

ブロックチェーンの実証実験では、データの不具合が生じたときには、データそのものを書き換えて対処したという話もききます。つまり、企業ユーザーにとっては、最終的にはデータを直接書き換えてしまったりしても、トラブルの解決法として、そこはかまわないわけです。

企業ブロックチェーンの根源価値は?

企業ユーザー、企業ブロックチェーンでは、分散型であるかどうかといったことは議論の対象ではないことが良くわかりました。

本来のブロックチェーンが持つ分散型という価値を捨ててしまった時、企業ブロックチェーン[3]が持つ根源的な価値とは何が残るでしょうか?

それは「データの共有」の部分と理解しています。業務データの「共有化、オブジェクト化、メソッド化」です。

そして、そこから、生まれるビジネスの革新やハイパフォーマンス化が肝です。逆にそれが抜け落ちたブロックチェーンは意味がないです。

つまり、1拠点のみや、1社内単独で導入するようなブロックチェーン、データ共有やメソッドの共有の必要性がなく単なる冗長化としてブロックチェーンを使うソリューションは、ITとしての効率化は存在しても、ビジネス上のインパクトは少なくなります。

企業はブロックチェーンに対して、ITの効率化ではなく、ビジネスのインパクトを期待していると思うので、コンソーシアム型が妥当です。

一方、コンソーシアムの導入には、いくつかの企業での取り組みになり、業務やフォーマットの統一など、簡単ではない側面もあります。企業ユーザーにとっては、これらを乗り越えて、コンソーシアムチェーンを実現できるかが、今後のチャレンジになるでしょう。

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[1]ハイパーレジャーというのはプロジェクトの名であって、製品名ではないとのこと。製品は、IBMのファブリック、ソラミツ社のIROHAなどがあるが、これらは機能も仕様もちがっており、まったく別の製品。ハイパーレジャーという共通の規格があるわけでもないそうです。本ブログで書いているのはIBMが開発している「ファブリック」という製品についてです。

[2]なおコンソーシアムという概念は、業界内だけではなく、自社グループ内や、グローバル拠点内、系列のサプライチェーン内、といったものも含みます。その場合、どのオペレーションにブロックチェーンを適用し、ハイパフォーマンス化するのかはケースによって様々です。

[3] なお余談になりますが、このように目的と価値観の違うものを同じブロックチェーンと呼ぶのは混乱のもとなので、個人的には、プライベートかパブリックかといったIT的な属性よりも「企業ブロックチェーン(enterprise blockchain)」という用語でくくったほうが良いようにおもわれたので、今後はそのように用語を提案します。

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