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ICOの変容とベンチャーキャピタルの蜜月な関係について

レポート「アルトコイン図鑑」では30種類以上のコインの概要と見通しを解説(詳しく)

ICOが様変わりしています。

具体的にいうと、一般にむけた販売が減少し、機関投資家に内輪で販売する私募(プレセール)が増えたことです。プロジェクトによっては、一般向け販売を取りやめ、プレセールだけで終わりにしたものもあります(Telegramなど)

3年前は、100%が一般販売でした。これが1年前は、半々くらいまでになり、最近はプレセールのほうが比率が高く、最新の事情はプレセールのみになりました。

これは、プロジェクト、投資家、双方の利害が一致が背景にあるとともに、規制当局の思惑があります。以下説明します。

そもそもICOは、限られた投資家だけが投資できる閉鎖されたベンチャー市場を打ち破ると期待されました。誰もがアクセスでき、わずか数ドルといった購入でもコスト割れすることなく行えました。プロジェクトにとって、暗号通貨という理解されづらく普通のルートから調達できにくかった資金を調達する手段として、ICOは頼みの綱でした。

しかし、状況はかわりました。暗号通貨プロジェクトはむしろ過剰なまでのお金を集めるようになり、資金はじゃぶじゃぶです。

消費者は、儲けたい一心のあまり、筋のよくないICOに手を出すようになり、殆どのICOが詐欺と呼ばれるまでになりました。このため当局は規制を強化します。

規制強化への究極の対応策が私募によるプレセールです。私募とは、限られた人に個別に声掛けして販売する形式をいい、具体的には、ベンチャーキャピタルや機関投資家に個別に販売します。一般に広く販売することを公募といい、私募と公募では規制の適用が全く違います。

私募であれば、たとえ証券であっても発行は簡単です。例えば、株式というまぎれもない証券であっても、ベンチャー企業が株式を発行して資金を調達しています。なぜそれができるかというと、私募だからです。(一方で「株式の公募」にあたるIPOがいかに難しいかはご存知の通り)

私募とは、概ね50名とか100名以下の投資家に個別に販売し、不特定多数に声掛けしないことをいいます。投資家には基準が要求され、適格投資家といわれます。

適格投資家の基準ですが、およそこのようなものです。

  • 投資業を行っている法人
  • 個人の場合、年収30万ドル(約3300万円)が直近3年つづいている
  • または、住居用不動産などを除く金融資産が500万ドル以上(約5億5000万円)。

これでは、いままでICOに参加していた個人は閉めだされてしまいます。せっかくの投資の民主化だったのに、結局金持ちだけが買えるようになり、金持ちがさらに金持ちになるのです。

しかし、この批判は的はずれです。結果としては「金持ちが更金持ち」になるのですが、事の発端は「リテラシーの低い投資家が、将来や家族のためのお金をこれ以上減らすことがないよう」に規制下に置かれ、こうなったのです。消費者があまりに愚かなので、規制当局は消費者保護とために規制を適用するしかありませんでした。

最近は、老舗のベンチャーキャピタルが数百円規模のクリプト専用ファンドを作っています。これらの資金の大半が、コインの私募引受に回るでしょう。なぜならべらぼうに儲かるからです。

コインを私募のみで引き受けて一般販売しなければ、将来どこかの取引所に上場した時に、かなりの値上がりが見込めます。半年やそこら寝かしておいて、有名VCの名前とかで期待をもたせておいて、うまく上場させれば、5倍は確実、10倍も狙え、ヘタすると20,30倍もねらえます。しかもその期間は半年程度。従来の企業投資に対して、こんなに効率のよい投資はありません。

当然、上場後のコインを購入するのは一般投資家です。一般投資家は、今度も最後の買い手(カモ)になります。

ベンチャーキャピタルは、出遅れた暗号通貨周りにおいても、自分たちの得意なビジネスモデルにうまく落とし込みました。ルール作りが上手いともいえ、流石だと思います。

まとめると、

  • 今後のICOは、プレセールによる私募での販売のみとなり、しばらくして取引所への上場されることで、一般投資家がが購入・取引できるようになる

という仕組みになるでしょう。これだとICO(イニシャル・コイン・オファリング)という言葉とは実態がずれるので、新しい言葉を考えたほうがいいかもしれません。

なお、このビジネスモデルにもいずれ終焉が来ると予想します。なぜなら、必ず取引所への上場規制が入るだろうからです。

ICOの一般販売は規制が厳しいのに、上場してしまえば、そこでコインを売る(一般投資家が買う)のは規制がない状況です。これはバランスにかけているので、必ず訂正されるでしょう。

上場規制とは、つまり株式や他の証券と同じく、財務諸表の公開や、四半期毎の報告、上場審査や、監査の義務付け、インサイダー取引の適用、違反時の刑事罰といったものです。現在は、これらのルールがなく取引所の一存で上場できるため、そこが抜け穴になっています(あからさまに賄賂を持ちかけるコインまで存在しています)。

さて、日本の状況を最後に補足します。日本では株式の私募には認可がいらないのにたいして、仮想通貨の場合は私募であっても仮想通貨交換業の免許が必要と考えられます。ですので、日本ではICOはいずれにしても厳しいと言えましょう。(免許保有業者に間に入ってもらって販売するのは可能)。この点でも、日本の法律は、仮想通貨を取り扱うものにたいして規模や形態によらず一律に広く規制の網をかけてしまいました。改正などで良くなることを望みます。

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