【weekly研究レポート】スケーリングビットコインまとめ。ビットコインは将来スケールするのか?香港の会議ではどういう結論がでたのか?

レポート「アルトコイン図鑑」では30種類以上のコインの概要と見通しを解説(詳しく)

12月8日、香港にて、スケーリングビットコインが開催され、スケーラビリティの問題に一区切りがつきました。会議の内容は、多くのビットコイナーや技術者を納得させる質の高いものでした。

ビットコインのコア開発者が一同に会し、それにくわえて、世界中の主要なビットコインマイナーも一同に会するという、オールスターミーティングであったようです。

私は大変残念ながら出席できなかったのですが、香港に行ったビットコイナーの感想を聞くと、口々にビットコインの将来性を再度、確信したと述べています。それほどまでに熱量のある会議だったようです。(それに伴い再び価格が勢いを増していますね)

という意味で、非常に節目でありまして、大事なカンファレンスだったのですが、日本語での記事は殆どないことから、事情がよくつかめないとおもいます。そこで、ざっとではありますが、各所の記事や、録画された会議の動画を下に、どういう結論がなされたのか、ビットコインはスケールするのか?といったことに対して、会議の方向性をまとめたいとおもいます。

結論からいいますと、短期的に最小限のリスクで、スケールを8倍にする方法が提案されて、その方向で、およそのコンセンサスが得られたとのことです。

具体的には、segregated witnessというプロトコルの導入。これにより、ブロックのサイズを1/4にすることができ、つまり容量が4倍に。しかも、ハードフォークといった危ない作業が必要ありません。これに加え、ブロックサイズを、一度だけ1Mから2Mに増やすというフォーク。これの組み合わせで、segregated witnessの効果とあわせて8倍に容量が増えるという形です。

ビットコインの場合、最高意思決定機関というものはないわけなので、これで決まりとは言えませんが、そのような方向性で、開発や提案がなされていくものと思われます。

その後は、サイドチェーン、マイクロペイメントのライトニングネットワークほか、ブロックチェーンのデータ構造そのものへの変更提案である No Orphans proposalsなど、様々な方法によって、スケーラビリティが拡張できると提案されています。

とりわけ、segregated witnessに関しては、新しい提案で、参加者のほぼ全員が、手放しで賛成しているという画期的な提案です。本記事では、このsegregated witnessとは何か?ということを一通り解説した上で、その他のスケーリング策である、サイドチェーン、ライトニングネットワーク、 ノー・オーファンブロックなどについて解説すます。

<スケーラビリティ議論の経緯>

その前に、スケーラビリティ議論の経緯をもう一度おさらいしましょう。ことの発端は、コア開発者のマーク・ハーンと、ギャビン・アンドリーセンが提案したビットコインXTにあります。ビットコインでは、それ以前にも遅延が発生しており、ネットワークの容量はいっぱいに近づいているという観測がありました。そこで、ビットコインをスケールさせるためのXTの提案がなされましたが、これはあまりに過激なものでした。

ブロックサイズの上限を8Mに拡張し、その後、2036年までに、8ギガバイトにするというもので、8000倍するという提案でした。

この提案は、2つの視点から不評をよび、早々にコミュニティから拒否をくらいます。

一つ目に、ビットコインの仕様の変更は不可逆であり、一度変更してしまうと後戻りができないこと、それにもかかわらず、XTの提案は技術的な検証を経ておらず、場当たり的な極論におもわれたこと。

ふたつ目に、XTの提案のしかたが、コンセンサスと議論によるものではなく、一方的な提案で、ビットコインマイナーによるパワー投票という、いわばクーデーターに近い提案であったこと。

このようなことから、XT問題をめぐって、ビットコインのコミュニティは分裂してしまい、ガバナンスの危機が訪れるという憶測が飛び交いました。

それによって、ビットコイン価格が急落、300ドルを回復していた価格は一時200ドルを割るなど、大きな影響がありました。

<スケーリング・ビットコインの開催>

そこで、提案されたのが、ビットコインのスケーリングに関して、徹底的に議論しようという会議でした。会議は2回にわけられ、第1回では、どのような問題があるのかという問題点を中心に、議論を深める。2回めは、それに対する実際の解決策について提案を持ち寄る、という形がとられました。

1回めはカナダで開催され、2回めは先日の香港で開催され、一応の結論にいたったという次第です。

この2回の会議は、ターニングポイントだったと思います。ガバナンスの危機が叫ばれたほどの自体でしたが、この会議を通して、世界中のコアの開発者が一同に会し、直接顔を合わせ、さらに中国のマイナーたちも加わって、本音の議論が加速したと思います。

<おさらい:ブロックサイズの何が問題か?>

さて、ビットコインのスケーリングというと何が問題なのでしょうか?ブロックサイズの問題とは何のことなのでしょうか?もう一度簡単におさらいします。(わかっている人は、次の章までとばしてください)

ビットコインは御存知の通り、10分毎のブロックに取引をまとめて承認しています。ブロックには

数百から数千の取引がふくまれていますが、どのくらいの数の取引を含めることができるかによって、さばける絶対数というのがきまってきます。これがビットコインのトランザクションスピード、スループット性能になります。

blockchain.infoなどをみますと、その様子がわかるのですが、

無題

だいたい、1500取引前後が多いようです。

かりに、1500取引とすると、10分間に1500取引ですから、1秒間になおすと2.5取引しかさばけないという計算になります。1秒で2.5取引・・・直感的に、遅いというのはわかると思います。

実際には、現状の仕様でさばけるビットコインの取引の上限は、7取引/秒 くらいだといわれています。VISAカードなどのネットワークでは、一秒間に1万3000件の取引を実際にすでにさばいている[2]ということなので、比較にならないスケールです。

<スケーリングを決めるもの>

スケーリングを決めるには、一つのブロックにどれだけの取引を入れることができるかによって、まずは一義的にきまります。(もう一つは、ブロックの生成間隔をもっと短くすればいいのですが、これは更に根本の仕様に関わるため、議論の対象にはあがってきていません)

1つのブロックにふくめることのできる取引ですが、これは、取引の数をカウントしているのではなく、データサイズをカウントしています。取引でも、たとえば複数のアドレスに送る取引は、それだけアドレスの数が増えたりしますので、データ量がおおきくなります。こういう取引がたくさんあると、ブロックに含められる数が減るんですね。ビットコインの取引は、データ量がポイントになっているのです。(実際、送金の手数料も、いくら送ったかではなく、取引データのサイズによって課金される仕様になっています)

このデータ量の上限が、1ブロックあたり1Mまでと決まっています。

先ほどのblockchain.infoのデータをみると、一番右側のsizeのところに注目してください、だいたい、906kbとか、907kbとか、927kbとか、1Mに近い数字になっているとおもいます。ブロックにふくまれる取引の絶対数はわりあいにばらつきがありますが、データ量は、現在でも1Mの上限に近いくらいまで使われているという感じなのです。

そこで、もっとネットワークのスピードをあげるには、この上限を拡張すればいいということになります。その究極の提案がXTで、1Mの上限を、8ギガバイトしましょうというものでした。8000倍の提案です。

単純に容量をふやすだけで話がすむならこれほどもめていません。容量を増やすことでリスクがあるからなのです。簡単にのべますが、

・ネットワーク伝播が遅くなり、その間に様々なリスク(二重支払いなど)が生じる

・ビットコインマイニングがさらに中央集権化する

といった問題がおき、これらは致命傷になりかねない問題なのです。

よりまして、簡単に、ブロックサイズの上限をホイホイ上げましょうということにはなりませんでした。理論的なシミュレーションなどを行って、あらゆるケースで安全と認定されないかぎり、安易な引き上げには反対するひともいました。

<segregated witness 署名の分離により、ブロックサイズを25%に圧縮>

そこで、香港でピーター・ウィールにより、画期的な方法が提案されます。segregated witnessです。(Segwitと略されて呼ばれています)。日本語では、「署名の分離」と訳すのが適当でしょう。

これはいままで誰もが気づかなった方法で、ブロックの情報を25%程度まで圧縮できるという

ものです。つまり、いままでの4倍の取引をブロックに含めることができるようになる、というものです。

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(続きの内容)

  • どうやってSegwitは取引を圧縮するのか?
  • ブロックサイズ上限そのものの引き上げる、4つのBIP提案
    • BIP 103
    • BIP 105
    • BIP 106
    • BIP 2-4-8
  • 結論は・・・・?
  • 中長期的なスケーラビリティ策
  • サイドチェーンによる、1対1ペグネットワークの創造
  • ライトニングネットワークによる少額支払いのオフチェーン
  • No Orphans proposals 分岐と融合を繰り返す新しいブロックチェーンモデル
  • ビットコインのスケーラビリティは必ず解決できる

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