ブロックチェーンの応用に、所有権の移転や確定という概念があるが、それをアートの所有に応用したサービスが誕生した。VCから2百万ドルの調達をしたと報じられている。
アーティストはAscribeにデジタル・アートの作品を登録し、あたかもビットコインのように、アートを所有したり、所有権を移転させたり、ブロックチェーンで履歴を確認したり、所有者を確認することができる。
登録できるのは、デジタルな作品(画像、映像、その他デジタルメディアであれば)を受け付けている。
ためしに早速私もアーティストとして、作品を登録してみた。
作者、製作年、タイトルを登録し、作品をアップロードすると上記のように登録できる。なおこちらは、私が過去に作った「waterfall」という写真シリーズである(笑)。冗談ではなく真面目なアート作品である。
エディションが指定できるので、今回は、限定10枚とした。
とても賢いソリューションだと感じるのは、これは、デジタル画像の偽造防止システムではないということだ。
登録した画像にコピープロテクトをかけてオリジナリティを保証するという方向性ではない。
そのかわり、Ascribeで出来るのは、「作品証明書」の発行とその移転だ。
「作品証明書」というと一般の人には馴染みがないと思うので、簡単に説明する。
みなさんは、現代美術の映像の作品を美術館などで見たことがあるとおもうが、あれも立派な美術作品で、実際に売買されている。
ただし、デジタル映像となると無限にコピーできる。そういうものに、美術品としての希少価値をもってもらうには、作家が保証して、部数を限定するしかない。
これを「エディション」という。
エディション10なら、10枚のDVDなりをつくって、それに「作品証明書」をそれぞれつける。1~10までの番号入りで、作品が正規品であり、10部限定であることを作者がサインした証書みたいなものである。
デジタル映像はコピーできるが、この証書はコピー出来ない。デジタル映像の作品を売買するときは、この作品証明書に価値がある。この証明書をなくしてしまうと、たとえ映像のDVDが残っていても美術品としての価値はゼロになってしまうという仕組みだ。
この概念で言うと、作品の映像自体は極論をいうと、コピーされてしまっても構わない。証明書の方に価値がある。
Ascribeは、この作品証明書をブロックチェーン上に作成し登録することができ、それぞれのエディションごとに、所有権の移転や、貸出、売買などを行うということができる。
このアプローチは、非常によく考えられていたものだ。デジタルの映像なり画像なりの、それそのものにコピープロテクトをかけて流通を制限するというやり方ではなく、美術業界のフォーマットにのっとって「作品証明書」の方を偽造できないようにするということにしているのは賢い。
これが私が登録した作品の実際の作品証明書である。アートワークのID、作家名、作品名などとともに、限定のエディションナンバーが記入されており(10/10)、デジタル署名がなされている。
この署名は、ブロックチェーンと紐付いていて、誰もが検証することができるようだ。
作品証明書は、指定したアドレス宛への「移転」のほか、期間をしていした「貸出」もできる機能がある。
ビジネスとしてアートの市場は狭いので、これがうまくいくかは未知数だが、所有権証書の管理プラットフォームという視点でみれば、アートを最初の実装として取り上げたのは上手だ。今後、さまざまなことに応用していくのかもしれない。
なお、先ほどの作品は限定10枚で登録したので、万が一購入希望者がいたらビットコインで販売する。