VALUのトークンは一体何を発行し、何に価値がついているのでしょうか?個人発行のトークンの2タイプについて考察してみました

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VALUが引き続き注目を集めています。こうした個人がお金のようなものを発行するというプラットフォームは、お金とは、価値とは何か、といったことについて、多くの論点や疑問をなげかけてくれており、最良のテキストのように思えます。

今回は、これを材料に、個人発行のトークンの2タイプについて考察しました。果たして、VALUのトークンは一体何を発行し、何に価値がついているのでしょうか?仮想通貨の価値はどこから来ているのでしょうか?

趣旨は、

  • 個人が発行するトークンは、債務型のものとそうでないものがある
  • 債務型はイサカアワーが代表で、将来の個人の評価と連動するという意味で、このモデルがふさわしいと個人的には考える
  • 債務型ではないのは、通貨型とよび、「発行者の周りの経済圏において通用する擬似マネーを発行し、発行者がマネーの発行主になる」というもの
  • 通貨型は、価値の裏付けがなく、ペーパーマネーであり、発行者だけがシニョレッジ(通貨発行益を得る)

順番に説明していきます。

個人がトークンを発行する場合、トークンが発行者にとって何らかの債務であるかないかによって2つの型にわかれます。

「債務型」は発行者がトークンに対して債務を負うものです。シンプルなものは、トークン保有者がそのトークンを持ってくれば、1時間のコンサルを行ってあげるとか、何らかのリワードを約束しているものです。

これは、発行者にとっては、タダで発行したように見えても、将来トークン保有者に対してのリワードを約束しているので、サービスの前売りになります。発行者のバランスシートからみると、トークンは負債・債務に勘定されます。一方トークン保有者からみると、発行人に対する請求権を有する形になります。

負債ですので、トークンが発行者に持ち込まれ、対価と交換された時点でトークンは消滅・償却されます。

老舗の地域通貨にイサカアワーというものがありました。これは、発行者が「一時間の頼みごと」を受けるという約束のもの発行されるトークンです。要するに「肩叩き券」です。たとえば、趣味で占いをしているひとがこれを発行することでトークンを得て、こんどはガーデニングを得意とする隣の住民にトークンで教えてもらうといった相互の交換が起こります。いままで経済にカウントされていなかった相互扶助や、助け合いが、トークンを通して交換され、経済が活性化しました。イサカアワーは、債務型の典型例です。

個人発行トークンも債務型であれば、比較的問題は少ないとおもいます。「1時間の頼みごと」ができるトークンを1万円で発行したとしても、価値を見出すひとがこれを購入することに非合理なところはありません。また発行人が、すごく有名になったり、価値有る人物になれば、1時間の頼みごとの価値が、10万円にも100万円にもなるかもしれません。その価値は市場で売買されて、時価がつくというのもクリアーで面白いです。

もちろん、発行人が頼みごとを履行しない場合もあってそのときはトークンがデフォルト(債務不履行)となります。ただ、著しく発行人の評判を落としますので、やりにくいはずです。

一方で、トークンが、なんらの債務ではないタイプもあります。これをなんと言うかは難しいのですが「通貨型」とよびましょうか。

なぜ通貨型というか?このトークンは普通に考えれば無価値なのですが、価値があるように流通させることもできます。つまり、発行人のファンや信者やその周りの間で、このトークンをつかって決済させたり、サービスをやり取りさせたりといったことを、うまいこと流行らせることができれば、ファンの間であたかもトークンが、擬似マネーのように流通することになります。

つまり、発行者独自の経済圏みたいなもののなかで流通する擬似マネーを発行するという考えです。ファンがそれを価値があると信じ続ける限り、価値が生まれるでしょう。いわゆる「共同幻想」です。

その場合、発行人は、無から創りだしたトークンを市場に供給することで、通貨発行益を享受することができます。債務ではないので、発行人が将来なにかを提供する義務もありません。市場に供給した分が丸々、発行人の利益になります。

この意味で、通貨型トークンは、紙幣の個人版です。民間紙幣の発行は著しく制限がされているので、同様のモデルは民間では見つかりません。

こうした紙幣の発行は、いままで国の専売特許でした。紙幣の発行を個人が行うことができて、それを流通させることができるのかどうかわかりませんが、興味ふかい取り組みです。

ただし、個人の紙幣発行は、詐欺をやっているのと見分けが付かないように見えます。ですから、民間紙幣の発行は厳しく規制されているのだと理解しています。(が、裏を返すと、国は紙幣発行という詐欺をしても良いわけです。深い世界ですね。)

これは何? 発行人のバランスシート上 対価の履行義務 発行人の収益 類似するもの
債務型 サービスの前売 債務・負債 あり サービス販売益 マイル、株式、商品券
通貨型 なんだろう? 資産 なし 通貨発行益 紙幣

さて、現状のVALUは、どちらの型でしょうか?

対価をつけてもいいし、つけなくても良い、となっているようですので、発行者がどちらの型にするかを選べるように思います。しかし、論調をみていると、対価を約束せず、その人の将来性といったあやふやなものに価値をつけることが画期的と評判を得ていることから考えると、「通貨型」を意図しているようにも思います。

いずれにしてもVALUは、身近に考えることのできる仕組みをつかって、価値とは何か、貨幣とは何か、といったことをあらためて考えるきっかけを与えてくれていることは間違いないです。多くの人が実験・議論に参加することは有意義とおもいます。最良のテキストとなりえます。もちろん最悪のテキストになる可能性もあります。

 

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